解説

【解説】地方自治①(国と地方公共団体は対等・協力の関係)

地方公務員の皆さんは、国と地方公共団体が対等・協力の関係だということはご存知でしょうか?

国からの通知等を受けて行う業務も多いため、下請けのようなイメージをお持ちかもしれませんが、法律上は対等関係なんです。

元々日本の地方制度は、中央政府の統括権が強く影響していたため、地方自治の機能は制限されたものでしたが、日本国憲法の制定によって地方自治が明文化され、地方自治法の制定によって地方自治が具体化しました。

しかし、機関委任事務を中心とした、国と地方公共団体との事実上の上下関係が残っており、日本国憲法において地方自治の本旨による住民自治・団体自治が求められているにも関わらず、中央集権を脱却していませんでした。

これを改善するべく地方分権改革が1990年以降に進められており、その際に制定されたのが、いわゆる地方分権一括法(正式名称:地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)です。

この地方分権一括法の趣旨の1つには、『国と地方公共団体を上下・主従の関係から対等・協力の関係にする』といったものがあり、これが現在の国と地方公共団体の関係性を担保しています。

このように、法律の成り立ちを理解することで、ぼんやり下請けのようなイメージを浮かべていた人も、くっきりと対等・協力の関係であると理解することができますよね。

地方分権に関連する知識は、地方公務員の皆さんにとって役立つ知識であると考えましたので、この記事でわかりやすく解説していきます。

国と地方公共団体は対等・協力の関係

地方公共団体の事務は、自治事務と法定受託事務に区分することができますが、それぞれの定義は地方自治法第2条に規定されています。

  • 自治事務:地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のもの
  • 法定受託事務:
    ①法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの
    ②法律又はこれに基づく政令により市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであって、都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの

自治事務は、元より地方公共団体が本来果たすべき役割に係るものであり、地域の特性に応じた事務処理が求められるため、自主的な事務執行が成される傾向にあります。

一方、法定受託事務は、国等が本来果たす役割を法令に基づいて地方公共団体が執行するため、消極的な事務執行となる傾向にあります。

特に、法令の解釈をめぐっては、地方公共団体に解釈及び執行の権限があるにも関わらず、国等に伺いをたててしまいがちです。

法定受託事務は、国等が本来果たす役割を地方公共団体が執行しますが、法令に基づいた事務の振り分けであり、国の委任を受けて執行するわけではありません。

国から委任(指示)された業務ではないため、自治事務であっても法定受託事務であっても、国と対等でいられるわけです。

地方分権一括法の施行がきっかけ

ただし、こういった対等な関係が成り立つようになったのは、地方分権一括法が施行された2000年4月1日からです。

それ以前は、自治事務と法定受託事務の区分ではなく、地方公共団体の事務(公共事務・団体委任事務・行政事務)と機関委任事務に区分されていました。

機関委任事務は、知事や市町村長が国の機関として委任され、国の事務を執行する事務です。

機関委任事務を執行するに当たっては、市町村長は知事の指揮監督下にあり、知事は国(主務大臣)の指示監督下にありました。

そして、地方公共団体の事務よりも機関委任事務のウェイトが大きかったため、いっそう縦割りの関係となり、対等とは程遠い状況となっていたというわけです。

上下・主従の関係から対等・協力の関係へ

地方分権一括法による地方自治の本旨の実現は、機関委任事務の廃止のみによって行われたわけではありません。

この記事の中では、関連性の高い3つを挙げておきます。

国と地方公共団体が分担すべき役割の明確化

国は、国際化への対応へ重点的に取り組む体制に転換し、地域に関する行政は、地方公共団体が主体的に担う体制に転換するべきであるという考えから、国と地方で役割分担をすることとしました。

国は、国家の存立に直接関わる政策に関する事務(例えば、外交、防衛、通貨、司法など)を行うほか、国内の民間活動や地方自治に関して全国的に統一されていることが望ましい基本ルールの制定に関する事務(例えば、公正取引の確保、生活保護基準、労働基準など)、全国的規模・視点で行われることが必要不可欠な施策・事業に関する事務(例えば、公的年金、宇宙開発、骨格的・基幹的交通整備など)を重点的に行うこととし、その役割を限定的なものにしていくべきであり、このほかの事務は地方公共団体が行うとするものです。


この役割分担は、全国的統一性や規模・視点が過度に強調され、事務の広域性や全国的な統一性・公平性を確保する必要を理由として国の関与が正当化されてきましたが、全国的影響をもって直ちに国の役割とすべきではなく、何らかの形で国の役割が必要な場合でも、国は極力基準の提示や制度の大枠の制定にとどめ、具体的な実施は地方の裁量に委ねるべきであるという考えで行われています。

権限移譲の推進と必置規制の見直し

行政分野ごとに権限の移管、国の関与・補助金の整理等を時限を区切って、一括して計画的に進める方式を導入し、地域に関する行政は、基本的に市町村と都道府県で完結するようになりました。

また、地方公共団体に対する国の関与・必置規制は、必要最小限度のものとすべきであり、かつ法律の明文によって認められている場合のみ行うことができるものとされました。

地方公共団体の財政基盤の整備

地方公共団体が自主的な事務を執行するためには、財政基盤が整備される必要があります。

このため、地方交付税の安定的確保や基準財政需要額の算定等の見直し、地方債制度の弾力化及び簡素化、国庫補助負担金の一般財源化などが行われました。

事務執行権は地方公共団体にある

地方分権一括法の施行により、日本の地方自治は、中央集権から地方分権に形を変えました。

国は、地方公共団体に対して最低限の関与のみを行い、地方公共団体に対してプレッシャーをかけるようなことはできません。

法令の解釈や、それに基づく事務執行についても地方公共団体の責任において行うべきであり、自主的な地方自治が求められます。

正しく住民のための地方自治を行うためには、私たち地方公務員が頑張るしかありません。

地方が輝く未来を創り上げるために、日々精進していく必要があるのです。

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