皆さんは、地方公務員に対して給料がいくら支払われているのかを御存知でしょうか?『中小企業より少し多いくらい?』といった漠然としたイメージを持った方は多いと思いますが、詳細を知る方は少ないように思えます。
職業選択をする上で、『給料がいくら貰えるのか』は重要なファクターです。イメージしていた給料と実際に支給される給料にギャップがある場合には、次のような残念な構図が出来上がります。
地方公務員は、人の役に立てるやりがいのある職業ですが、職業であるからには、給料が重要なのは当然のことです。
イメージしていたよりも給料が安い場合は、やる気を大きく損ない、離職する可能性を高めます。また、給料が安いとイメージされている場合は、本来採用できるはずの優秀な人材が集まりません。
このような給料ギャップは、就職をされる方はもちろん、自治体にとっても大きな損失を生んでしまいます。
そのためこの記事では、地方公務員に対する興味を持った方に、正しい給料の知識を持っていただくことによって、不幸なミスマッチを無くすことを目的に作成しています。
わかりやすく解説しますので、どうぞ最後まで御覧ください。
関連記事:【まとめ】地方公務員の転職をサポート!4月も間に合う!(経験・資格・採用)
YouTubeチャンネル『地方公務員ドットコム』では、地方公務員の待遇や服務について、解説動画を公開しています。文字よりも音声の方が理解しやすい方や、ながら作業で聞きたい方におすすめです。
地方公務員の給与の仕組み
地方公務員の給与は、地方公務員法第24条第5項の規定に基づき条例で定めることとされています。条例は議会において決定する議決事項であり、首長の単独で定めることはできませんので、適正な仕組みを規定することができます。
議員が得票数を稼ぐために、公務員の給与を下げちゃうんじゃないの?
こんな疑問が浮かんだかもしれませんが、安心してください。地方公務員の給与は、国家公務員の給与に準拠する形で設定されています。
国家公務員の給与は、民間企業従業員の給与水準と均衡させることを基本として(民間準拠)、同じ条件(役職段階、勤務地域、学歴、年齢階層)にある者同士の官民の給与を比較した上民間企業の一般的な収入を元に算出されています。
簡単に言うと、『同程度の民間企業で働いた場合と同じだけの給与が支給されるようにするよ!』ということです。ただし、日本は中小企業に勤める方が全体の約70%を占めるため、公務員は平均収入よりもやや高水準の給与が支給されています。
給与=給料+手当
給与は、給料と手当から構成されています。手当の詳細は後半で解説。
根拠法令:地方自治法第204条
外部リンク:地方公務員の給与の体系と給与決定の仕組み(総務省)
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地方公務員の給料表
地方公務員の給料は、条例に規定する給料表における「級」と「号俸」の組合せで決定し、支給されます。級は1~8級(9,10級)、号俸は1~125程度で定められており、1級10号俸や3級55号俸などと表現します。
給料表は次のように職種ごとに設けられており、全ての給料表の全ての級号俸に、対応する給料額が定められており、それが職員に1月に支払われる給料額となります。
地方公務員の初任給決定(5区分)
★地方公務員の初任給に関する動画を作成しましたので、併せてご覧ください。
一番最初に支給される給料が初任給です。初任給は、次の5つの区分で級号俸を算出し、その中から職員にとって1番有利なものが適用されます。
この5つの区分について、詳しく解説していきます。
※地方公務員の給与は、3月で1号俸、1年(12月)で4号俸で計算するのが一般的。
学歴
最終学歴の区分によって、初任給の級号俸が異なります。下位の学歴区分で採用されるよりも、上位の学歴区分で採用された方が、初任給が高く設定されています。
例えば行政職であれば次のようになります。
短大(2年制)と大学(4年制)を比較すると、11号俸の差があります。基本的に職員は1年間に4号俸昇給しますので、短大卒入職2年後の職員は、2級12号俸が支給されます。
つまり、大学卒の方が短大卒よりも、同じ年齢で支給される給料が、3号俸分高いということです。この差は、通常昇給では一生埋まることがありません。
資格区分
採用される際に有している資格区分によって、級号俸が異なります。また、採用された後に上位の資格を習得した場合は、給料が上方修正される可能性があります。
例えば医療職⑶であれば次のようになります。
民間企業では、資格手当は当然に存在しており、人材確保の観点から重要な要素となります。地方公務員においても、上位の資格を有している方が、給料が高くなることが多いです。
年齢区分
採用された年齢によって、最低保証される級号俸が異なります。これは、学歴や職歴に関係なく適用されます。
例えば次のとおりです。
年齢による最低保証給料額の上昇は、学歴や職歴と比較すると小さいです。地方公務員を目指すのであれば、給料面だけを見ると、年齢が低いうちの方が有利な設計です。
経験年数(加算)
初任給を決定する際には、様々な経験年数が加味されることとなります。
例えば、次のとおりです。
前職が全く違うジャンルの場合は、換算率が低く、同ジャンルの場合は100%換算される可能性があります。前職での経験が採用職種での業務に活用されるのかを判断し、初任給に加算されることとなります。
修学年数(加算・減算)
初任給を決定する際には、修学年数が加味されることとなります。
例えば、大学卒区分に採用された場合は次のとおりです。
修学期間によって給料にデメリットを与えないことが目的のため、例えば博士課程修了であっても+30号俸、+40号俸ということはありません。
なお、学歴区分と修学加算の差は、自治体が求めている(あらかじめ定めている)かどうかが判断基準となります。
先ほどと同様に、行政職を例にとってわかりやすく説明します。
学歴区分は、高卒、短大卒、大学卒の3つしかありません。博士課程修了の方が採用された場合は、大学卒業者として採用されます。しかし、それでは非常に不利な給料となり、優秀な人材は集まりません。
これを回避するために、修学加算(+20号俸)が行われるわけです。博士課程修了の方にとっては、これでも安すぎるくらいでしょうが、地方公務員になるという選択肢は残るのかなと思います。
初任給の決定(例)
初任給の算定に当たっては、採用された者の職種、学歴、資格、経験年数、修学年数から最も有利なものを導き出します。
これを、各種区分に応じて計算していきます。Aさんの場合は、短大卒と准看護師免許の取得、大学卒と看護師免許の取得が同じタイミングのため、2つの学歴資格区分と、年齢区分を比較することとなります。
※結果はわかりやすく1級で比較表現します。
『短大2卒准看護師>大学4卒看護師>年齢36歳』により、看護師Aさんの初任給は、1級77号俸で決定されます。
※地方公務員の初任給決定は、各自治体の規則等で定められており、自治体によって差がありますので、参考としてください。
地方公務員の昇給(3区分)
地方公務員の初任給は決して高くありませんが、安定した昇給があり、将来受け取ることができる給与が想定できます。
地方公務員の昇給は大きく分けて3つの区分で構成されています。
この3つの区分について、わかりやすく解説していきます。
通常昇給
通常昇給は、規則等に定めるところにより、1年に1度行われます。昇給日は、1月1日又は4月1日としている自治体が多いです。
昇給は、1年間で4号俸ずつ上昇していきますが、勤務成績が優秀又は極めて優秀であれば6号俸又は8号俸、不良であれば0号俸又は2号俸となってしまいます。
1号俸の当たりの給料額の上昇値は、1,000~2,000円程度ですが、級号俸の数が大きくなれば上昇値は小さくなります。
このため、若手職員や昇格して間もない職員は、毎年5,000~10,000円程度給料額が上昇しますが、退職間際の職員等は、400円~1,200円程度の上昇となります。
特別昇給
特別昇給は、研修や業務の成績が著しく優秀である職員に対し、昇給させる制度です。自治体にとって大きな成果を上げた職員や、一定の勤続年数に達した職員が対象となります。
また、廃職又は過員解消等により整理退職となる場合や殉職した場合にも、同様の昇給が認められています。
これらの制度は、各自治体によって大きく異なりますので、規則等をご確認ください。
また、昇給する号俸は、2~8号俸程度です。
昇格による昇給
給料表の「級」は職務(職責)によって定められており、上位の級に移行することを昇格と言います。
級には、それぞれ標準職務内容(職責)が定められており、例えば次のとおりです。
どの級に値するかについては、基本的には『職位』と『在級年数』で決定されます。職位は、『係員→係長→課長→自重→部長』という階級のことで、在級年数とは、その級になってから何年経過しているかというものです。
1級から2級に昇格する場合は、係員から係員の級に移行するため、在級年数の経過のみで昇格します。しかし、係員の級は4級までしか存在しないため、5級になるためには、係長以上に昇任する必要があります。
反対に、係長の級は3級以上しか存在しないため、1級の職員が係長に昇任した場合は、自動的に3級に昇格します。
極端な例ですが、採用されてから毎年昇任した場合は、次のようになります。
このように、違法公務員も出世が早ければ早いほど高収入になるような制度設計がなされていますので、出世を目指す上での励みにしていただければと思います。
地方公務員の諸手当
★地方公務員の手当の種類に関する動画を作成しましたので、併せてご覧ください。
地方公務員の諸手当は、全部で26種類ありますが、どの手当を支給するかは各自治体の裁量によります。これらは全て、地方自治法第204条に定められており、この26種類以外の手当を支給することはできません。
総務省では、この26種類の手当をさらに4類型に区分しています。ここでもそれにならった形で4類型で解説していきます。
職務関連手当
地域手当
地域手当には、職務関連手当としての意味合いと、人材確保手当としての意味合いがありますが、ここでは前者についてのみを解説します。
地域手当は、当該地域における民間の賃金水準を基礎として、当該地域における物価等を考慮して支給される手当です。
給料のみで十分な水準に達している場合は支給されません。支給される場合の金額は、給料+扶養手当の20%を上限として条例で定めます。
例えば北海道職員は次のとおりです。
関連記事:【解説】地方公務員の地域手当とは?わかりやすく解説(民間比較・物価考慮)
特殊勤務手当
特殊勤務手当は、著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮を必要とするが、その特殊性を給料で考慮することが適当でないと認められるものに対して支給される手当です。
また、特殊勤務手当は各自治体により独自に定められていますが、定めるに当たっては、国に準拠するべきとされています。
国が定める特殊勤務手当は、次の27項目です。
各特殊勤務手当の支給は、1時間、1日又は1回ごとに数百円から数千円が支給されます。給料表は数種類しかないにもかかわらず、職種によって給与が異なるのは、特殊勤務手当が支給されているためです。
時間外勤務手当(超過勤務手当)
時間外勤務手当は、正規に割り振られた勤務時間以外に勤務した場合に支給される手当です。
勤務1時間当たりの給与額×支給割合×勤務時間数
支給割合は、次の区分に応じて決定されます。
宿日直手当
宿日直手当は、宿日直勤務を行った職員に支給される手当です。
勤務の態様に応じて、勤務1回につき4,400円~21,000円の範囲で支給されます。
管理職員特別勤務手当
管理職員特別勤務手当は、管理又は監督の地位にある職員が、臨時又は緊急の必要等によりやむを得ず週休日等又は平日深夜(午前0時から午前5時までの間)に勤務した場合に支給される手当です。
1回につき、数千円から1万数千円が支給されます。
夜間勤務手当
夜間勤務手当は、正規の勤務時間として深夜に勤務した職員に支給される手当です。
勤務1時間当たりの給与額×25%×勤務時間数
休日勤務手当
休日勤務手当は、祝日法による休日等に勤務した職員に支給される手当です。
勤務1時間当たりの給与額×135%×勤務時間数
管理職手当
管理職手当は、管理又は監督の地位にある職員に支給される手当です。
職位に応じて、4万円~7万円程度が支給されます。ただし、時間外勤務手当円程度が支給されます。ただし、管理職手当が支給されている職員は、一般的に時間外勤務手当等が支給されません。
期末手当・勤勉手当
期末手当と勤勉手当は、6月1日と12月1日に在職する職員に対して支給する手当です。これは、民間企業における賞与(ボーナス)に当たるものです。
期末手当は、在職期間に応じ、勤勉手当は勤務成績に応じて支給される手当です。
関連記事:【解説】地方公務員の賞与は扶養が多いと得?(期末手当・勤勉手当)
定時制通信教育手当
定時制通信教育手当は、高等学校の定時制課程の教育及び通信教育に従事する校長及び教員に対して支給する手当です。給料月額の、4~8%程度が支給されます。
産業教育手当
農業又は工業に係る産業教育に従事する教員に対して支給する手当です。給料月額の、3~10%程度が支給されます。
農林漁業普及指導手当
農林漁業普及指導手当は、林業改良指導員、水産業改良普及員及び生活改良普及員等に支給される手当です。給料月額の、5~15%程度が支給されます。
災害派遣手当
災害派遣手当は、災害対策基本法第32条第1項等に規定する職員で、住所又は居所を離れて被災地域等に滞在することを要するものに対して支給する手当です。滞在1日につき、3,000~8,000程度が支給されます。
生活関連手当
扶養手当
★地方公務員の扶養手当に関する動画を作成しましたので、併せてご覧ください。
扶養手当は、扶養親族のある職員に対して支給する手当です。子以外の扶養手当は、俸給の高い職員(部長職以上)は減額又は支給されません。
関連記事:【解説】地方公務員の扶養手当をわかりやすく解説(要件・金額・届出)
住居手当
★地方公務員の住居手当に関する動画を作成しましたので、併せてご覧ください。
住居手当は、借家・借間に居住する職員及び単身赴任手当受給者であって配偶者等が借家・借間に居住する職員に対して支給する手当です。
関連記事:【解説】住居手当をわかりやすく解説(公務員は賃貸が圧倒的にお得)
単身赴任手当
単身赴任手当は、異動等に伴って住居を移転し、やむを得ない事情により同居していた配偶者と別居して単身で生活することとなった職員に対して支給される手当です。
職員の住居と配偶者の住居との交通距離に応じ月額30,000円~100,000円が支給されます。
寒冷地手当
寒冷地手当は、寒冷地に在勤する職員に対して、11月から3月までの期間支給される手当です。
寒冷地とは、北海道及び東北の都市のことを言い、地域区分と世帯区分に応じて支給されます。
地域区分 | 世帯主(扶養有) | 世帯主(扶養無) | 非世帯主 | 代表都市 |
1級地 | 26,380 | 14,580 | 10,340 | 旭川市、帯広市 |
2級地 | 23,360 | 13,060 | 8,800 | 札幌市、釧路市 |
3級地 | 22,540 | 12,860 | 8,600 | 函館市、室蘭市 |
4級地 | 17,800 | 10,200 | 7,360 | 青森市、盛岡市、秋田市 |
人材確保手当
地域手当
職務関連手当のパートで、『地域手当は、当該地域における民間の賃金水準を基礎として、当該地域における物価等を考慮して支給される手当』として解説しましたが、地域手当は人材確保手当としての性質も兼ね備えています。
地域手当は、医師及び歯科医師に対して特例的に支給されます。具体的には、地域手当に+10~20%程度です。
初任給調整手当
初任給調整手当は、専門的知識を必要とし、かつ、採用による欠員補充が困難であると認められる職に採用された職員に一定期間支給される手当です。
一般的に想定されている職種は医師で、最大で400,000万円以上支給することも可能です。
特地勤務手当
特地勤務手当は、離島その他の生活の著しく不便な地に勤務する職員に支給される手当です。
特地は1~6級地の6つに区分され、給料月額+扶養手当の4~25%程度が支給されます。
へき地手当
へき地手当は、へき地に所在する学校等に勤務する職員に対して支給される手当です。
へき地は1~5級地の5つに区分され、給料月額+扶養手当の4~25%程度が支給されます。
その他
通勤手当
通勤手当は、通勤のため、交通機関等を利用又は自動車等を使用することを常例とする職員に対して支給される手当です。片道2㎞以上あれば、自転車通勤でも支給されます。
通勤手当は、実費相当額が支給されます。(上限55,000円)
特定任期付職員業績手当
特定任期付職員業績手当は、特定任期付職員のうち、特に顕著な業績を挙げたと認められる職員に対して支給される手当です。
特定任期付職員業績手当は、給料月額に相当する額が支給されます。
任期付研究員業績手当
任期付研究員業績手当は、任期付研究員のうち、特に顕著な研究業績を挙げたと認められる職員に対して支給される手当です。
任期付研究員業績手当は、給料月額に相当する額が支給されます。
退職手当
退職手当は、職員が継続勤務して退職する場合に支給される手当です。
退職手当の解説は、非常にボリュームが大きいため、別途記事を用意しましたので御覧ください。
関連記事:地方公務員の退職金について(解説)
年収
年収は、1番少なく見積もるのであれば、給料月額×16倍程度ですが、各種手当によって大きく変動します。
例えば、住居手当を28,000円、扶養手当を36,500円支給されている職員は、いずれの手当も支給されていない職員と比較すると、年収が100万円ほど多いこととなります。
参考として、平均的な30歳の地方公務員の年収を掲載しました。
関連記事:消防士と警察官どっちが稼げる?(高卒で地方公務員!)
関連記事:【ついに解禁?】地方公務員の副業制限についてわかりやすく解説
地方公務員の給料は出世と業績次第
ここまで、地方公務員の給与について解説しましたが、ご理解いただけたでしょうか。給与に関する知識を得ることにより、冒頭で挙げたようなミスマッチが無いと良いなと思います。
公務員の給与は、昔ほど年功序列にのみとらわれたものではなくなってきており、早期の出世や勤務成績優秀による昇給等があれば、なかなか高額な収入を得ることができます。
このため、出来るだけ能力、やる気のある方に地方公務員になっていただき、最速出世をした上で、日本を地方から突き上げていただけたらと思います。
今後、伸び続けるであろう地方を、優秀な皆さんで牽引していきましょう。地方創生はこれからが本番です。