第二節 任用(第十五条―第二十二条)
第十五条(任用の根本基準)
条文
(任用の根本基準)
第十五条 職員の任用は、この法律の定めるところにより、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行わなければならない。
第十五条は、任用の根本基準について書いています。
職員の任用は、受験成績(採用試験、昇進試験)、人事評価(能力評価、業績評価)その他の能力の実証(資格免許・学歴・研修・経験等)に基づいて行う必要があります。
第十五条の二(定義)
条文
(定義)
第十五条の二 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 採用 職員以外の者を職員の職に任命すること(臨時的任用を除く。)をいう。
二 昇任 職員をその職員が現に任命されている職より上位の職制上の段階に属する職員の職に任命することをいう。
三 降任 職員をその職員が現に任命されている職より下位の職制上の段階に属する職員の職に任命することをいう。
四 転任 職員をその職員が現に任命されている職以外の職員の職に任命することであつて前二号に定めるものに該当しないものをいう。
五 標準職務遂行能力 職制上の段階の標準的な職(職員の職に限る。以下同じ。)の職務を遂行する上で発揮することが求められる能力として任命権者が定めるものをいう。
2 前項第五号の標準的な職は、職制上の段階及び職務の種類に応じ、任命権者が定める。
3 地方公共団体の長及び議会の議長以外の任命権者は、標準職務遂行能力及び第一項第五号の標準的な職を定めようとするときは、あらかじめ、地方公共団体の長に協議しなければならない。
第十五条の二は、任用に関する定義について書かれています。
第二項に標準職務遂行能力の標準的な職を定める権限は任命権者としていますが、首長及び議会議長以外の任命権者は、首長に協議することを義務付けられています。あくまで協議であって、首長の名の下において定めるわけではないので、注意が必要です。
第十六条(欠格条項)
条文
(欠格条項)
第十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
一 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
二 当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
三 人事委員会又は公平委員会の委員の職にあつて、第六十条から第六十三条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者
四 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者
第十六条は、欠格事項について書いています。令和元年12月14日施行の法律改正が行われるまでは、成年被後見人及被保佐人も欠格理由に含まれていましたが、削除されました。
第2項に規定する『当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者』は、あくまで同一地方公共団体への採用が認められないのであって、他の地方公共団体で採用する場合は、欠格事項に該当しません。
第十七条(任命の方法)
条文
(任命の方法)
第十七条 職員の職に欠員を生じた場合においては、任命権者は、採用、昇任、降任又は転任のいずれかの方法により、職員を任命することができる。
2 人事委員会(競争試験等を行う公平委員会を含む。以下この節において同じ。)を置く地方公共団体においては、人事委員会は、前項の任命の方法のうちのいずれによるべきかについての一般的基準を定めることができる。
第十七条は、任命の方法について書かれています。第一項における『欠員状態』とは、条例で定めた定数との比較です。
また、任命は任命権者の意思表示が相手方に到達したときに効力が発生するため、内示・内定は事実行為に過ぎません。(到達主義)行政事件訴訟法第三条第二項に規定する『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』には該当せず、取消訴訟を訴求できない旨の判例もあります。
第十七条の二(採用の方法)
条文
(採用の方法)
第十七条の二 人事委員会を置く地方公共団体においては、職員の採用は、競争試験によるものとする。ただし、人事委員会規則(競争試験等を行う公平委員会を置く地方公共団体においては、公平委員会規則。以下この節において同じ。)で定める場合には、選考(競争試験以外の能力の実証に基づく試験をいう。以下同じ。)によることを妨げない。
2 人事委員会を置かない地方公共団体においては、職員の採用は、競争試験又は選考によるものとする。
3 人事委員会(人事委員会を置かない地方公共団体においては、任命権者とする。以下この節において「人事委員会等」という。)は、正式任用になつてある職に就いていた職員が、職制若しくは定数の改廃又は予算の減少に基づく廃職又は過員によりその職を離れた後において、再びその職に復する場合における資格要件、採用手続及び採用の際における身分に関し必要な事項を定めることができる。
第十七条の二は、採用の方法について書かれています。
採用は競争試験と選考の2つの方法があり、原則は競争試験で採用することとなります。
第十五条にもあるとおり、任用は『受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて』行わなければならないため、任用の一つである採用もこの基準に基づく必要があります。つまり、競争試験と選考のいずれにしても、受験成績、人事評価その他の能力の実証を行うために実施しなければなりません。
なお、競争試験が不特定多数の人を対象とするのに対して、選考は特定の候補者を対象としています。
第十八条(試験機関)
条文
(試験機関)
第十八条 採用のための競争試験(以下「採用試験」という。)又は選考は、人事委員会等が行うものとする。ただし、人事委員会等は、他の地方公共団体の機関との協定によりこれと共同して、又は国若しくは他の地方公共団体の機関との協定によりこれらの機関に委託して、採用試験又は選考を行うことができる。
第十八条は、採用試験を行う機関について書かれています。
人事委員会等が選考を行う場合、『職務遂行能力を有するか』を『選考基準に基づいて』判断することとなり、基準に含まれていない事由から判断する裁量は認められていない。
第十八条の二(採用試験の公開平等)
条文
(採用試験の公開平等)
第十八条の二 採用試験は、人事委員会等の定める受験の資格を有する全ての国民に対して平等の条件で公開されなければならない。
第十八条の二は、採用試験の公開の平等について書かれています。
第十三条に規定する平等取扱の原則を実現するため、採用試験の公開についても、国民に対して平等にしなさいよという趣旨です。
第十八条の三(受験の阻害及び情報提供の禁止)
条文
(受験の阻害及び情報提供の禁止)
第十八条の三 試験機関に属する者その他職員は、受験を阻害し、又は受験に不当な影響を与える目的をもつて特別若しくは秘密の情報を提供してはならない。
第十八条の三は、受験の阻害及び情報提供の禁止について書いています。
これも、第十三条に規定する平等取扱の原則を実現するためのものです。例えば事前に試験内容を、特定の個人に対して提供した場合は、地方公務員法に反することとなります。
第十九条(受験の資格要件)
条文
(受験の資格要件)
第十九条 人事委員会等は、受験者に必要な資格として職務の遂行上必要であつて最少かつ適当な限度の客観的かつ画一的な要件を定めるものとする。
第十九条は、受験の資格要件について書いています。
本来であれば全国の自治体でほとんど同じ要件となるはずですが、資格要件は自治体によって様々です。特に年齢要件や社会人経験等において、自治体に色が出ています。
真なる平等を目指すのであれば『欠格事項に該当しなければ全員受験できる』とするのが良いのでしょうが、実際にはそうなってはいません。
第二十条(採用試験の目的及び方法)
条文
(採用試験の目的及び方法)
第二十条 採用試験は、受験者が、当該採用試験に係る職の属する職制上の段階の標準的な職に係る標準職務遂行能力及び当該採用試験に係る職についての適性を有するかどうかを正確に判定することをもつてその目的とする。
2 採用試験は、筆記試験その他の人事委員会等が定める方法により行うものとする。
第二十一条は、採用候補者名簿の作成及びこれによる採用について書いています。
採用試験の目的は『標準職務遂行能力』と『適正』の性格な判定!
第二十一条(採用候補者名簿の作成及びこれによる採用)
条文
(採用候補者名簿の作成及びこれによる採用)
第二十一条 人事委員会を置く地方公共団体における採用試験による職員の採用については、人事委員会は、試験ごとに採用候補者名簿を作成するものとする。
2 採用候補者名簿には、採用試験において合格点以上を得た者の氏名及び得点を記載するものとする。
3 採用候補者名簿による職員の採用は、任命権者が、人事委員会の提示する当該名簿に記載された者の中から行うものとする。
4 採用候補者名簿に記載された者の数が採用すべき者の数よりも少ない場合その他の人事委員会規則で定める場合には、人事委員会は、他の最も適当な採用候補者名簿に記載された者を加えて提示することを妨げない。
5 前各項に定めるものを除くほか、採用候補者名簿の作成及びこれによる採用の方法に関し必要な事項は、人事委員会規則で定めなければならない。
第二十一条は、採用候補者名簿の作成及びこれによる採用について書いています。この規定は人事委員会を置く地方公共団体について書かれていますが、試験を行う公平委員会を置く地方公共団体に対しても適用されます。
採用候補者名簿は合格点以上の受験者が全て載り、そこから任命権者が採用しますが、得点の順に採用する規定は特にありません。
第二十一条の二(選考による採用)
条文
(選考による採用)
第二十一条の二 選考は、当該選考に係る職の属する職制上の段階の標準的な職に係る標準職務遂行能力及び当該選考に係る職についての適性を有するかどうかを正確に判定することをもつてその目的とする。
2 選考による職員の採用は、任命権者が、人事委員会等の行う選考に合格した者の中から行うものとする。
3 人事委員会等は、その定める職員の職について前条第一項に規定する採用候補者名簿がなく、かつ、人事行政の運営上必要であると認める場合においては、その職の採用試験又は選考に相当する国又は他の地方公共団体の採用試験又は選考に合格した者を、その職の選考に合格した者とみなすことができる。
第二十一条の二は、選考による採用について書いています。
選考採用は、係長以上の補職者や医師等の特別な資格を有する者を採用する際に行う!
第二十一条の三(昇任の方法)
条文
(昇任の方法)
第二十一条の三 職員の昇任は、任命権者が、職員の受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づき、任命しようとする職の属する職制上の段階の標準的な職に係る標準職務遂行能力及び当該任命しようとする職についての適性を有すると認められる者の中から行うものとする。
第二十一条の三は、昇任の方法について書いています。
昇任も任用の一つのため、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づく必要がある!
第二十一条の四(昇任試験又は選考の実施)
条文
(昇任試験又は選考の実施)
第二十一条の四 任命権者が職員を人事委員会規則で定める職(人事委員会を置かない地方公共団体においては、任命権者が定める職)に昇任させる場合には、当該職について昇任のための競争試験(以下「昇任試験」という。)又は選考が行われなければならない。
2 人事委員会は、前項の人事委員会規則を定めようとするときは、あらかじめ、任命権者の意見を聴くものとする。
3 昇任試験は、人事委員会等の指定する職に正式に任用された職員に限り、受験することができる。
4 第十八条から第二十一条までの規定は、第一項の規定による職員の昇任試験を実施する場合について準用する。この場合において、第十八条の二中「定める受験の資格を有する全ての国民」とあるのは「指定する職に正式に任用された全ての職員」と、第二十一条中「職員の採用」とあるのは「職員の昇任」と、「採用候補者名簿」とあるのは「昇任候補者名簿」と、同条第四項中「採用すべき」とあるのは「昇任させるべき」と、同条第五項中「採用の方法」とあるのは「昇任の方法」と読み替えるものとする。
5 第十八条並びに第二十一条の二第一項及び第二項の規定は、第一項の規定による職員の昇任のための選考を実施する場合について準用する。この場合において、同条第二項中「職員の採用」とあるのは、「職員の昇任」と読み替えるものとする。
第二十一条の四は、昇任試験又は選考の実施について書いています。
昇任させるためには、競争試験又は選考を行う必要があります。
第三項の規定により、臨時的任用職員等は受験資格を有しません。
第二十一条の五(降任及び転任の方法)
条文
(降任及び転任の方法)
第二十一条の五 任命権者は、職員を降任させる場合には、当該職員の人事評価その他の能力の実証に基づき、任命しようとする職の属する職制上の段階の標準的な職に係る標準職務遂行能力及び当該任命しようとする職についての適性を有すると認められる職に任命するものとする。
2 職員の転任は、任命権者が、職員の人事評価その他の能力の実証に基づき、任命しようとする職の属する職制上の段階の標準的な職に係る標準職務遂行能力及び当該任命しようとする職についての適性を有すると認められる者の中から行うものとする。
第二十一条の五は、降任及び転任の方法について定められています。
降任・転任も任用の一つのため、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づく必要がある!
第二十二条(条件付採用)
条文
(条件付採用)
第二十二条 職員の採用は、全て条件付のものとし、当該職員がその職において六月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。この場合において、人事委員会等は、人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定めるところにより、条件付採用の期間を一年に至るまで延長することができる。
第二十二条は、条件付採用について書いています。
職員として採用された場合、最初の6か月は必ず条件付採用されます。職員は、6か月の間に職務遂行能力を示さなければなりません。
しかし実際のところは、何か大きな問題がない限りは、6か月経過後に当然に正式採用されます。
成績採用されないパターンとしては、6か月の間に刑事事件を起こしたり、職務成績が極めて不良(誰にでもできることができない。命令を無視する等)の場合です。正式採用されない場合は、職員としての身分を失います。
なお、休業等により十分に職務成績を判断できない場合は、条件付任用期間を1年に至るまで延長することができます。
第二十二条の二(会計年度任用職員の採用の方法等)
条文
(会計年度任用職員の採用の方法等)
第二十二条の二 次に掲げる職員(以下この条において「会計年度任用職員」という。)の採用は、第十七条の二第一項及び第二項の規定にかかわらず、競争試験又は選考によるものとする。
一 一会計年度を超えない範囲内で置かれる非常勤の職(第二十八条の五第一項に規定する短時間勤務の職を除く。)(次号において「会計年度任用の職」という。)を占める職員であつて、その一週間当たりの通常の勤務時間が常時勤務を要する職を占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間に比し短い時間であるもの
二 会計年度任用の職を占める職員であつて、その一週間当たりの通常の勤務時間が常時勤務を要する職を占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間と同一の時間であるもの
2 会計年度任用職員の任期は、その採用の日から同日の属する会計年度の末日までの期間の範囲内で任命権者が定める。
3 任命権者は、前二項の規定により会計年度任用職員を採用する場合には、当該会計年度任用職員にその任期を明示しなければならない。
4 任命権者は、会計年度任用職員の任期が第二項に規定する期間に満たない場合には、当該会計年度任用職員の勤務実績を考慮した上で、当該期間の範囲内において、その任期を更新することができる。
5 第三項の規定は、前項の規定により任期を更新する場合について準用する。
6 任命権者は、会計年度任用職員の採用又は任期の更新に当たつては、職務の遂行に必要かつ十分な任期を定めるものとし、必要以上に短い任期を定めることにより、採用又は任期の更新を反復して行うことのないよう配慮しなければならない。
7 会計年度任用職員に対する前条の規定の適用については、同条中「六月」とあるのは、「一月」とする。
第二十二条の二は、会計年度任用職員について書いています。会計年度任用職員制度は、令和2年4月1日から施行された新しい制度です。
今までの地方公務員法における臨時的任用職員や嘱託員は、共通して定められている事項が少なく、不十分であり、自治体によって取扱いが大きく異なりました。
これが改善されたのが会計年度任用職員制度です。この制度については、個別の解説ページを作成しています。
会計年度任用職員制度【解説集】
第二十二条の三(臨時的任用)
条文
(臨時的任用)
第二十二条の三 人事委員会を置く地方公共団体においては、任命権者は、人事委員会規則で定めるところにより、常時勤務を要する職に欠員を生じた場合において、緊急のとき、臨時の職に関するとき、又は採用候補者名簿(第二十一条の四第四項において読み替えて準用する第二十一条第一項に規定する昇任候補者名簿を含む。)がないときは、人事委員会の承認を得て、六月を超えない期間で臨時的任用を行うことができる。この場合において、任命権者は、人事委員会の承認を得て、当該臨時的任用を六月を超えない期間で更新することができるが、再度更新することはできない。
2 前項の場合において、人事委員会は、臨時的に任用される者の資格要件を定めることができる。
3 人事委員会は、前二項の規定に違反する臨時的任用を取り消すことができる。
4 人事委員会を置かない地方公共団体においては、任命権者は、地方公共団体の規則で定めるところにより、常時勤務を要する職に欠員を生じた場合において、緊急のとき、又は臨時の職に関するときは、六月を超えない期間で臨時的任用を行うことができる。この場合において、任命権者は、当該臨時的任用を六月を超えない期間で更新することができるが、再度更新することはできない。
5 臨時的任用は、正式任用に際して、いかなる優先権をも与えるものではない。
6 前各項に定めるもののほか、臨時的に任用された職員に対しては、この法律を適用する。
第二十二条の三は、臨時的任用について書いています。
臨時的任用職員を任用する場合の前提条件は『常時勤務を要する職に欠員を生じた場合』です。それ以外の場合に非常勤職員を任用する場合は、会計年度任用職員を任用することとなります。
臨時的任用職員を正式採用に際して優先することができないため、臨時的職員に対して「筆記受かったら合格させてあげる」なんて発言をする上司の言葉は信用してはいけません。法律に触れます。